十字架称賛(祝日)

福音=ヨハネ3:13-17


「人の子も上げられねばならない」(ヨハネ3:14

 

 第一朗読の民数記で語られる「炎の蛇の旗印」には、古代オリエント世界の影響が色濃く見られる。古代オリエント世界、特にエジプトでは、蛇は「死と命(滅びと救い)」、「悪の力と善の力」という両義的な霊力を持つ生き物と考えられ、崇拝されていた。また、アッシリアやエジプトの旗竿の先には、神へのいけにえを象徴すると思われる羊や牛と太陽が付けられていた。このようなことから、「炎の蛇の旗印」という話には、蛇を旗印としていた部族-ダン族(創49:17)-の伝承が想定される。

 ところで「旗印」とは人々を一つに集めるシンボルである。聖書が語る「救いの歴史」には、二つの解放運動があり、それぞれに「旗印」がある。一つはヤーウェであり、もう一つはナザレのイエスである。ヤーウェを旗印とする運動は、エジプトから約束の地に向かう解放運動である。これが聖書の「信仰」の基本線である。神との契約に基づいて、イスラエルの民は、この解放の道を歩むプログラムを与えられる。これがトーラー(律法)である。だが、この道は決して平坦な道ではなく、労苦に満ちたものであることを彼らはその長い歴史を通して少しずつ理解していく。このような「信仰」理解の深まりを経て、「約束の地」に向かう解放運動の新たな旗印となったのが、ナザレのイエスであったと言える。

 十字架称賛の祝日にあたり、私たち一人ひとりが、ナザレのイエスを旗印として、イエスが指し示した「約束の地」を目指して歩む運動体の一員であることを改めて思い起こそう。