年間第12主日A年

福音=マタイ10:26-33


「恐れるな。あなたがたは、たくさんの雀よりもはるかにまさっている」(マタイ10:31

 

 今日の福音は、神ならぬものを恐れずに(26節、31節)、神を恐れ(28節)、神のことばを宣べ伝え(27節)、信仰を証しする(32節)ことを教える。そしてそれを支えるのは、被造物とりわけ神に従う人々に注がれる神のいつくしみに他ならないことを強調する。どうやらマタイの共同体は「恐れる」ほどの迫害を受けており、そうした状況のなかでも、「天の父」の意志に基づいて、くじけず宣教するように人々を励ましている。

 旧約聖書によると、神の意志を実践しようとする人は苦難に遭遇する。契約再締結の仲介者となったモーセとエリヤがその代表であり、預言者、嘆きの詩編に多くの事例を見ることができる。今日の第一朗読のエレミヤ、答唱詩編の69編がそれに当たる。いずれの預言書にも預言者自身が被る苦難をうかがい知ることができるが、第二イザヤ書の「苦難の僕」(イザ52:13-53:12)やエレミヤ書の「エレミヤの告白」(①11:18-12:6、②15:10-21、③17:14-18、④18:18-23、⑤20:7-18)が顕著である。特に後者は、預言者自身が一人称で自分の苦しみを神に訴えており、これ以外にはほとんど例を見ない。第一朗読は、エレミヤ書に5つある「告白」の五番目のものである。こうした旧約聖書の系譜に連なるのがイエスであり、イエスに従う人々もまたそうである。

 マタイ福音書におけるイエスは、プロローグの降誕物語で「インマヌエル」(神は我々と共におられる)と呼ばれ(1:23)、エピローグの復活顕現物語で「わたしは世の終わりまで、いつもあなたがたと共にいる」と言われる(28:20)。神はご自分を信じる人々と共におられ、彼らを守り導かれる。共におられる神への信頼が、神のことばを宣べ伝える勇気と力をわたしたちに与える。